October 16, 2013

あいさつの魔法

『疲れによく効くカイフクンC!お買い求めは天覇まで!』


そんなナレーションと共に天覇の女社長が腰にぐいっと手を当てドリンクを飲み干す映像がほたる横丁に設置された大型モニターから流れた。メタファルスのテレモ技術に天覇が独自に手を加え天覇放送を始めたのが少し前の事だ。最近は放送権の売買も始めたらしく、ポツポツと天覇以外の放送も流れるようになった。ゆくゆくはあのモニターを売り出し家で天覇放送を見られるようにするらしいが、あんな大きなものをどうやって家に入れるのだろうか。

そんな事を考えながらミシャはぼうっとモニターを見ていた。待ち合わせ時間はとうに過ぎてるのだが待ち人がくる気配はない。
「ライナーったらまた遅刻ね」
ライナーが遅れるのは今に始まった事でもないのだが今日は特別遅い。仕方ないのでなんとなくモニターを見ていたのだが、映像が切り替わった瞬間に思わずミシャは吹き出してしまった。

『ありがとオリカ!』
『さ、さよなライナー!』
『素敵な仲間がぽぽぽぽーん!』

映像自体はエレミア教会の宣伝のようだが登場人物が反則的だった。何故か半ズボン姿のラードルフが歌いながら着ぐるみを着た人と手をつなぎ満面の笑みでスキップをしている。そして一緒にスキップしていたのがほかでもないライナーだったのだ。

「さよなライナーっていくら何でも強引過ぎるわ」
笑いをこらえながらツッコミを入れつつ平静を装うが、その「さよなライナー」である事を思い出した。ライナーとお別れしたあの日の事を。

―プラティナから旅立つ日。ライナーが送ってくれるから大丈夫、寂しくなんかないって自分に言い聞かせた。でもいざ別れる時がくるととても不安で、寂しくて。ライナーに連れ帰って欲しい、手を引いて欲しいって思った。なのにそのライナーときたら自分より寂しそうで不安そうな顔をしていて、逆に自分が元気付けなきゃ!って思って口にしたあの言葉。

『ライナー!またね!さよなライナー!』

途端にライナーが笑い出して、言ったこっちが恥ずかしくなって思わず『忘れて!』って叫んでそのまま笑顔で別れたあの日のことを。

自分ではすっかり忘れていたのだが、もしかしてライナーは律儀にあの事を忘れたのだろうか。それとも…


「おーい」
遅れてきたのにライナーが呑気に手を振りながらこっちへ向かってくる。問い詰めてやろうかと思ったけど、なんとなくそうしない方がいい気がする。
「遅刻よ!ライナー!」
さあ、デートを楽しまなくっちゃ。誰かさんが遅れてきた分までね。


fin

abrachan at 04:32│Comments(0)TrackBack(0)その他 

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